秋恋 〜愛し君へ〜
俺たちは比較的乗客の少ない鈍行に乗り、一番端の座席を陣取った。彼女を守るためというのが一番の理由だった。電車に乗ったはいいが、俺は肝心の停車駅を知らない。小田急沿線に一人暮らしをしているというのは知っていた。でも、それ以外本当に彼女のことを何も知らないのだ。そんな理由もあって各駅に止まらない急行を避けた。
俺の肩にもたれかかり、ぐったりしている彼女の顔をそっと覗き込むように話しかけた。

「駅どこですか?家まで送るんで教えてもらったら助かるんですけど」

「タマガワ、ガクエン、ミナ、ミ、カイ、サツ、ミギ、サンズ、ヒル、203…」

朦朧としていたのだろう。途切れ途切れに彼女は答えた。鈍行に乗ってよかった。玉川学園前には急行は止まらない。

「わかりました。俺がついてるんで寝てください」

もうそれ以上の会話はなかった。わりと静かな車内には、ただひたすら前へ前へと進む電車の音だけが響いていた。
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