天秤は愛に傾く ~牙を隠した弁護士は不器用女子を甘やかしたい~
「兄とは少し年は離れているんだけど、堅物そうに見えてムッツリスケベなんだ」
食べ終え満足そうな誠は突然そんなことを話し出した。
素子にプリンを多めに残して、そしてスプーンをティッシュで丁寧に拭き取って渡す。
素子は潔癖症では無いものの、男性が使ったスプーンを口にするのに一瞬躊躇した。
だが向こうが食べてという圧力の笑顔で来るので素子は諦めて食べ始める。
「お兄さんを存じ上げませんが酷い言われようですね」
「だってさ、兄の彼女は学生時代家庭教師をしていた教え子で一回りも下なんだから。
僕も昔から知ってる子で妹みたいに思っていたけど、将来年下の義理の姉が出来る訳で。
兄がぞっこんになるのは仕方ないほどに凄くいい子なんだ。
母も昔から彼女を娘のように思っていたから、早く結婚して欲しいみたい。
そんな彼女は自分が意外とモテることに気付いてないから、ヤキモキしている兄を見ているのは実に楽しいけど」
誠の表情はとても柔らかい。
兄やその恋人を大切にしているのが素子にも伝わってきた。
初めて誠とこんなにも話し、素子は自分が勝手に誠の印象を軽い人だと決めつけてしまっていた事が恥ずかしくなった。
きちんと相手を知らずに外見や肩書き、そういうもので決めつけるなんて事は、自分だってされていて傷ついていたはずが、そんなことを自分もしてしまっていた。
相手を羨むばかりでいた自分の方が情けない。
「素敵なご家族ですね」
「うん、ほんと兄達は素敵だと思うよ」
「はい。
そしてそれを素敵だと言えて大切に出来る芝崎さんも素敵だと思います」
ふわっと素子が笑った。
それはいつも素子が纏っている鎧を取り払った、素の笑顔。
初めて見たそんな笑顔に、誠は思わずドキリとする。
(可愛い)
知らずにそう思ってしまった。
そして、自分を褒めてきた素子に何の打算も無い事は誠にもわかっていた。
いつも自分を褒めてくるのは自分の親を意識してか、または自分に色目を使いたい女。
結局は打算と下心によるもので、それをずっと味わっている分こういう裏表の無い感情は誠にとって珍しいものだった。
(いつもツンケンされてたけど、この笑顔と言葉は反則だな)
柔らかい表情でプリンを食べる素子を見て、誠は苦笑いしながら頭を掻いた。