天秤は愛に傾く ~牙を隠した弁護士は不器用女子を甘やかしたい~
第二章 複雑な思い


「昨日、遅かったんですねぇ」

既に素子は始業開始前から仕事に取りかかっていたが、化粧室から化粧を整えてきた美々が珍しく素子の席までやってきたので素子は表情も無いまま美々を見上げる。

「見ちゃったんですよ私。
昨日の夜芝崎さんと帰ってましたよね、それも遅くに」

素子に近づき、こそこそ話のように言いながら反応を伺う。

「そうですか」

素子は素っ気なく答え、昨日作らされたデータを念のため保存しメールの送信ボタンを押す。
そして引き出しの鍵を開けて中からA4の茶封筒を取り出した。

「なんですか、それ」
「課長に聞いて下さい」

質問しても視線すら合わせない素子に美々は苛立った顔をすると、機嫌悪く自分の席に戻った。

素子はその封筒とスマートフォンを手に持ち、馬場の机の前に行く。
馬場はスマートフォンをいじっていたが、素子に気付いてあざ笑うような顔をする。
周囲はまた素子が怒鳴られるのだろうと迷惑そうだ。
素子は手に持っていた茶色い封筒を馬場の前に両手で差し出す。

「こちら、昨日言われた年賀状です。
データは先ほどメールで送信しましたので」

馬場は差し出された会社の名前と題名の書かれた封筒をいぶかしそうに見ながら受け取った。

「抜いたりしてないだろうな」
「渡された時にどういうものが渡されたか確認できていないので証明できませんが、少なくとも打ち込んでから何も無いことを証明するため封筒を閉じてお渡ししています。
後はご自分でご確認下さい」
「待て。中身を確認する」

そろそろ始業時間。
席に戻ろうとした素子を制止し、馬場が封筒を手で乱暴に破りだした。
恐らくこれをまともにやったのなら、まず終電に間に合わなかっただろう。
タクシーか何か自腹で払って帰っただろうに、まだめげないとは。
馬場はめげない素子が面白くなく、中を見て実は足りないとか葉書が汚れているとか何か言いがかりをつけようと中を見た。
そこに一枚小さなメモ書きが入っているのを見つけ、馬場は恐らく素子がミスで自分のメモを紛れ込ませたのだと思った。

外に漏れたらまずい内容ではなくても、こういうミスが大きなミスに繋がるなどと指摘するのに使えそうだ。
そう思い、それを読んですぐに気付く。

(なん、だと?)

メモ書きを見ている馬場が震えているのに素子は気付いた。
あれは昨夜芝崎さんが書いたメモ。
一体何が書かれてあったのか。
馬場は顔を赤くして立ったままの素子を睨み付けると、

「もういい、戻れ」

吐き捨てるようにそういい、素子が戻ろうと後ろを向くときにちらりと肩越しに馬場を見れば、憎々しげにそのメモを握りつぶしていた。

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