天秤は愛に傾く ~牙を隠した弁護士は不器用女子を甘やかしたい~
第五章 束縛する方法
素子が旭株式会社に久しぶりに行くと、フロアの社員達は素子に気付くたび皆変な笑顔を向けてきたり、初めて挨拶をされたりした。
完全に腫れ物を扱うような態度に、素子は内心苦笑いを隠せない。
奥にある馬場の席は当然のように不在。
社員達に送られた本社人事部からのメールで、馬場が解雇されることは皆知っている。
ようやく厄介者が消える、それに皆安堵していた。
元々決裁権を課長だというのに持っていなかったので、一切仕事に影響していないので問題が無かった。
素子が仕事の引き継ぎをしようとすれば、総務部の三十代男性が自分が担当だと言ってきてそれはスムーズに始まった。
既に始業開始から時間が経つのに須賀が来ていない。

「須賀さん、今日お休みですか?」

総務部の男性は、はは、と笑う。

「馬場さんとつるんでいたことを指摘されたからね。
落ち込んでるかと思いきや、ちょうど有休も取れるようになったから気分転換に海外に行ってくるんだと。
いやはや女性って逞しいよね」

最後男はチラッと素子に視線を送った。
逞しい、それを悪い意味で使い素子もそうだと言っている。

「そうですね。
何もやましいことが無ければ堂々としていれば良いと思います」

にこりと素子が初めて会社で笑顔を見せた。
だが男は引きつった笑顔をして、えっと次の内容だけれどと仕事に無理矢理話を戻した。

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