星空なら、うまく話せるのに

「莉子、これを大切に持っていて」

 おばあちゃんが亡くなる寸前、私に手渡した一冊の本。いつの時代の本なのか?と思うほど、年季の入ったボロボロの表紙に一瞬開くのをためらった。

 和紙のような少し黄ばんだ紙に筆で描かれた鋭い眼をした龍と、達筆な文字。

 読み進めると、そこに書かれていたのは、あまりにも表紙や文字と似つかわしくない物語『ドラゴンヘッドとドラゴンテイルの物語』だった。

 子供の頃から占い好きだったから、ドラゴンヘッドとかそんな言葉は聞いたことがあった。でもそれは占星術の話って思っていた。確かドラゴンヘッドは『今世、取り組むべき課題』で、ドラゴンテイルは『過去世で何度も繰り返してきたこと』とかって聞いたことがあった。

 そんな本を、なんでおばあちゃんが私に?

 理由を聞けぬまま、おばあちゃんはこの世を去った。

 それは冷たい雨の降る、6月のこと。

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