夫婦間不純ルール
「雫ちょっといいだろうか? その、君が資格の試験に合格したら二人で一緒に出掛けたいと思っているんだが」
「え? いきなり、どうして?」
そんな岳紘さんからの提案に、私は驚いて渡されかけていたコーヒーのカップを落としそうになる。今まで一緒に出掛けたことは何度かあったが、それは全てそうする必要性がある時だけで。
だけど今回のはまるでデートの誘いみたいで、急な話に胸がドキドキと煩くなる。戸惑っているけど内心は嬉しいのだ、夫からこうして誘われたことが。
「その、合格祝いを何か渡したいと思ったんだけど……どれだけ考えても、君が喜びそうなものが分からなくて。それなら一緒に選んだ方が良いんじゃないかって」
「岳紘さんが私に? そんな事を考えてくれていたの?」
予想もしなかった彼の言葉に、私は胸が高鳴るのを抑えられなくて。ああ、やっぱり私はこの人がどうしようもなく好きなんだって思い知らされる。
これだけの事で、私の心を完全に掴んでしまうこの人はやっぱり狡い。あれほど固く決心した気持ちが、言葉一つでグラグラと揺れてしまいそうになるから。
「ああ、雫が嫌でなければ一緒に出掛けたい。どうだろうか?」
「とても嬉しいわ、なら絶対に合格しなきゃね。その日を楽しみにしてるわ」
来るかどうかわからない。そんな未来のデートを想像し切なさを感じながら、それでも笑ってそう答えていた。