夫婦間不純ルール
「それじゃあ、俺は先に風呂を済ませてこようかな。くれぐれも無理はするなよ?」
「大丈夫よ、いってらっしゃい」
いつもより機嫌の良さそうな岳紘さんはそのままバスルームへと向かっていく。そんな彼の後姿を見つめながら、私の心は複雑だった。
夫は私が奥野君と協力して、彼の浮気の証拠を掴もうとしてるとは思いもしないだろう。
貴方の言葉一つで一喜一憂する、そんな素直で馬鹿な妻でいられなくて本当にごめんなさい。
『木曜日、○○駅前ビルのカフェに15時に来てください』
『必ず、その時間までに行きます』
奥野君からのメッセージに返事をして、そのままスマホの電源を切った。
きっと岳紘さんとのデートは実現しない、先に奥野君と約束した木曜日がやってくるのだから。きっとその日を境に私達夫婦は今まで通りではいられなくなる、だから……
「でも、先に思い出だけは欲しかったかもね」
岳紘さんと出会って、彼に恋していた時間を後悔はしていない。でも二人で作った思い出はあまりにも少なくて、きっと片手で足りてしまう。そのことがちょっとだけ悲しくて、シクシクと心が痛んだ。
これから先、岳紘さんはどんな女性と思い出を重ねていくのか想像すると涙が滲んで。この胸の痛みや心の重苦しさも、全てが終わってなくなることを願うしか出来なかった。