夫婦間不純ルール
「雫、アンタもしかして……」
「違うわ、ちょっと暑くて。それだけだから、気にしないで」
分かってる、こんな誤魔化しは麻里に通じないってことくらい。だからといって素直に奥野君とのやり取りを思い出したからだ、なんて言えるわけもなく。これ以上、麻里が追求しないでくれる事だけを祈っていた。
「……雫じゃなきゃ、問いただしている所だったわ。一途なアンタが岳紘さん以外の男に揺さぶられるわけない、そう思えるから黙っておくことにする」
麻里はとても勘が良い、こう言葉にすることで私の気の迷いを全て見透かしてると伝えてくるのだから。だからこそ、あの話が出来ないワケでもあるのだけれど。
別に今の私が奥野君に心揺さぶられてるつもりはない、だけど全く意識してなかった頃とは少しだけ違っている気もしていた。彼がただの後輩でなく、男性として私に接してこようとするから。
「……そろそろ出ましょうか? いつもの雫ならとっくに夕飯の支度に帰るって言いだしてる時間よ」
「え? ああ、本当ね。ごめん、麻里に気を使わせてばかりで」
持っているスマホのディスプレイの画面を指差し、麻里は今の時間を教えてくれた。確かに今までの私ならば、岳紘さんの夕食の準備だと言って帰っていただろう。
そのことに全く気付かなかった事には驚いたが、その日は深く考えずに麻里と別れて買い物をして帰った。
……だけど、この日の夜。
夢に出てきたのは大人になった奥野君で、私はその夢の中で彼に寄り添い恋人同士のように甘えていたのだった。