夫婦間不純ルール
ガチャン、と大きな音を立てて持っていたはずのトレーが床に落ちた。その上にのせていた二つのワイングラスが割れて、ガラスの欠片がフローリングに散らばっている。
驚いた表情をしている岳紘さんに謝り、急いでしゃがみ込み大きな破片から拾い始めた。
「ごめんなさい、ちょっと驚いてしまって……すぐに片付けるから、ソファーで待っていて」
動揺を悟られないようになるべく冷静にそう言ったつもりだったが、少し声は上擦っていたかもしれない。だって……急に岳紘さんが私の手に触れてきたりするから。
普段から触れ合いのない私たち、それでも奥野君の夢を見てからの私は少しおかしかった。もしかしてあの夢が私の隠れた願望なのかと何度も不安になり、麻理に相談しようかと悩みもした。
少しだけ後ろめたさを感じていたからだろうか? 岳紘さんがトレーを持ってくれようと私の手に触れた瞬間、思わず過剰に反応してしまったのだ。少なくとも今までは平気な顔をして、渡すことが出来ていたのに……
「危ないから俺がやる、雫は箒とちりとりを持って来てくれ」
「……え? でも私がやった方が」
「いいから」
割ったのは自分だし、岳紘さんに手伝ってもらうほどの事でもない。そう思ったが、なぜか今回に限って彼は自分が片づけると言って譲らなかった。
大きな破片を集め終わった岳紘さんが箒を受け取り小さな破片まで綺麗に片付けていく。それを確認した後、念のため掃除機をかけていると岳紘さんがジッとこちらを見ていることに気付いた。
「……どうかしたの?」
掃除機を止めて所定の場所に戻そうと持ち上げた時、真剣な表情の岳紘さんがそれを私から少し強引に取り上げた。いきなりの彼の行動といつもと違う様子に驚き、つい夫を見上げてしまった。
何か言いたげな表情、長い付き合いでそれくらいは私でも理解できた。分からなかったのは……その後の彼の言葉の意味で。
「何故、そうやって俺を避ける?」
「……え?」