夫婦間不純ルール


「いつも真面目な麻実(あさみ)ちゃんが、あの日だけとてもミスが多かったでしょう? それからずっと貴女の様子が今までと違って見えて、放っておけなくなってたのよ」
「そう、だったんですね。私の変化に気付く人なんていないとばかり思ってました」

 自分ではいつもと変わらぬ態度で仕事をしているつもりでいた。たとえ心穏やかでなくても、それを誰かが気にするなんて思いもしなかったとうのもある。職場の人間関係だから、それくらいドライなものだと深く考えもしないで……
 
「こういうの、迷惑かもしれないとは思ったの。でも私ってほら、すごくお節介な性格だから」
「そんなことないです、私は今すごく久世(くぜ)さんに救われてますから……」

 勝手に一線引いていたのは私の方だ。自分が周りを見る余裕がなかったから、そう自身に言い聞かせて都合よく考えてしまっていた。そんな自分が恥ずかしくもあったが、久世さんの優しさは素直に嬉しいと思えた。
 久世さんは屈託のない笑顔でそう笑ってみせるけど、彼女のそんな性格に周りの人がどれだけ元気をもらえるのか本人は知らないのかもしれない。

「だといいのだけどね、こんな性格だから身内にはよく怒られちゃうのよ。近所でも有名なお節介おばさんなんだって、恥ずかしいってね」
「そうなんですか? 結構厳しいですね……」

 私にとって久世さんはフレンドリーな職場の先輩だけど、彼女の家族の反応は意外と厳しいようで。それでも周りを放って置けない彼女はすごく強くて素敵な女性なのだと思う。


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