夫婦間不純ルール
「ごめんなさい。こんなによくしてもらってるのに私、何も話せなくて……」
普通の夫婦の悩みならば相談出来たのかもしれない、むしろそうであればよかったとさえ思う。ちょっとした夫の愚痴をお互いで笑い話にできるような、そんな関係になれたらと。
だが実際には人に話せないような奇妙な夫婦関係を望まれていて、とてもそれを相談する気にはなれそうにない。未だ友人にも話せずにいるのは……多分、そんな相手とは離婚するべきだとはっきり言われてしまうのが怖いから。
まだ彼のことを愛していて、離れる自信がない。そんな弱い自分を分かっている、もしかしたら夫もそんな私のことを理解してこんな夫婦生活を提案してきたのかもしれない。
「なんでも話さなければ良い関係が築けないわけじゃないと思うわ。でもそんな泣きそうな顔をしている間は傍にいてあげたいの、それではダメかしら?」
「久我さん……」
鼻の奥がツンとする、目の裏側が熱くてジンジンするようで。視界が滲んでぼやけてしまうから、俯いて久我さんから顔を逸らした。
……そういえば久我さんがやたらと私に話しかけるようになったのは、最近のことで。前からフレンドリーな人ではあったが、視線が合うようになったのも。
そう、岳紘さんとのルールが決まった頃からだった。