夫婦間不純ルール
それが当然だというように奥野君は考える素振りも見せずに答える。私にだけ都合のいいそんな場所に平気でなろうとする、目の前にいる彼の本音は読めなくて。
私は奥野君の学生時代の先輩に過ぎない。そこに隠された好意があったとしても、その気持ちがどうしても理解出来なくて。
「なんで、そこまで……」
「そうですね。他の男の前で弱音を吐かれるくらいなら、弱みを見せられるくらいなら俺のところにいて欲しいからでしょうか」
もう揺らがないと決めたのに、真っ直ぐな言葉に心が揺さぶられないわけがなくて。嫌いなわけじゃない、異性として意識していなかっただけ。
でも、それももう無理な気がしていた。私を見つめるのは弟の様だった後輩ではなく、いつの間にか一人の男性に変わっていて。
「俺は逃げ場でもいいです、雫先輩が俺を必要としてくれるならそれでもいいから。だから俺からは逃げないで」
「奥野君、私は……」
自分はそこまでしてもらうほどの価値がある女だろうか? 何年も想い続けた夫にも愛されず、どうすればいいのかも分からなくなっているような人間なのに。
それでも奥野君のその気持ちにジンと私の心が暖かくなるのも事実で、この感情をどうすることも出来なくなって。