夫婦間不純ルール

 今の状況から逃げたいのは本音だけど、そう簡単に出来る事じゃない。岳紘(たけひろ)さんをこのまま避けながら生活することは不可能だし、いつかは向かい合わなくてはいけない。
 嫌なことを先延ばしにしてる、ただそれだけで……

「私には逃げる場所なんて、必要ないの。そんな予定は無いんだから」
「予定が無くても、構わない。今の俺に出来ることはそれだけなんですから、好きにさせてくださいよ」

 どうしても甘えることが出来ない私に、それでも構わないと奥野(おくの)君は言う。彼を頼ればいつか奥野君の奥さんに迷惑をかけることになるかもしれない。そう考えれば、出せる答えなんて一つしかなくて。
 奥野君をこんな気持ちにさせてしまうなら再会しなければよかったのかもしれない。でも私には彼しか縋れる相手が思いつかなくて。

麻理(まり)先輩は、このことを知ってるんですか?」
「……言えない、話したらきっと麻理は彼を許さないから」

 普段は最初に相談するはずの麻理に私はまだ岳紘さんとの事を話せないままでいた。それもある程度は予想していたのだろう、奥野君の「やっぱり」という小さな呟きが聞こえてきた。
 麻理に話せていたら、奥野君にこうして会いに来ることは無かったかもしれない。でも……奥野君は夫に別の特別な相手がいることを知っているような口ぶりだったから。だから、あの夜もここに来てしまったのだと思う。


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