異世界召喚 (聖女)じゃない方でしたがなぜか溺愛されてます

最終話 聖女(じゃなくても)溺愛されています①/②

媚薬の効果はきっちり一時間で切れた。

目的は私の体液をリングに付けるだけなので、無理に挿入する必要はないそうだ。
さすがにここで最後まですることは気が引ける。
なので滴るものを彼のと混じり合わせ、リングに擦り付けた。
するとリングの光を受けて、まるでプラネタリウムのように部屋全体が光り輝いて、コトリとリングが外れた。

「もし、子どもがもう必要ないと思えば、これはまたいつでもまた付けられます」
「そうなんですね」

そんな時が来るのかわらないが、妊娠の可能性はいつだってある。
地球とは文明の発展する方向が違うだけで、この世界が地球より進んでいることもたくさんあるのだと知った。

「今夜から、私の子種をあなたに注げるのですね」

日本でもゴム無しに性行為をしたことはない。
だから精液を注がれたこともない。
お腹の奥に、好きな人のものが注がれるってどんな感じなのだろう。

「想像しましたか?」

私の顔を見てアドルファスが聞いてきた。
そういう彼も、目的は達したというのにまだ屹立している。

「宴など放っておいて、このまま二人で過ごしますか? お客様は両親とレディに任せておいたら大丈夫でしょう」

それは誘惑的な提案だったが、せっかく私達のために集まった人たちに悪い。
アドルファスも本当にそうするつもりはないのだろう。

「それより、本当に新婚旅行は行かなくていいのですか?」

この世界でも新婚旅行なるものは習慣としてあるらしい。アドルファスも考えてくれたが、今はそれぞれ仕事もあって纏まった休みは取れない。

「それはまたゆっくり考えましょう。浄化する魔巣窟もまだ残っていますし、私はあなたと一緒ならそれでいいんです」
「そんな可愛いことを言われたら、我慢出来なくなりますよ」

キスだけで我慢しますが、と言ってアドルファスは唇を重ねた。

「そろそろ行きますか?」
「はい」

再び着替えて廊下に出ると、クムヒム神官が待っていてくれた。

「改めておめでとうございます」
「クムヒム神官、これまでありがとうございました」
「もう私の力は必要ありませんね。それより、また騎士として鍛えられるとお聞きしました」
「ええ」

毒が浄化されたことで、アドルファスの脚も良くなり、もう杖はまったく必要なくなった。
それと共に彼は再び騎士としての訓練を始めることにした。結婚式後から訓練を始める。

それは魔巣窟へ向かう私に付き添ってくれるためだった。

また彼より年下の騎士に混じっての訓練。五年も現役を退いていたし、年齢も重ねているので、きっと慣れるまでは大変だろう。それでも私の側にいて護りたいと言ってくれるアドルファスの気持ちが嬉しい。

神殿の表に向かうと、待機していた馬車に乗ってレインズフォード家に向かった。

邸の前にはたくさんの馬車が犇めき合い、私達の到着を待ち構えてくれていた。

皆に拍手で迎えられ、宴会場となったボールルームに入ると、その奥でアドルファスのご両親とレディ・シンクレアと、財前さんが立っていた。

彼らに暖かく迎えられ、今日のためにルディクさんたち厨房の面々と共に開発し、調理に勤しんでくれた料理の数々が並ぶ。メニューの開発には財前さんも参加した。

ブュッフェスタイルでの料理提供は、この世界では珍しい。
総指揮をルディクが取り、王宮からも助っ人の料理人が来てくれることになった。

カナッペやピンチョス、タコスやピザ、ガスパチョ、ローストビーフ、ミニバーガーにフライドポテト、テリーヌに野菜のゼリー寄せ、パルミジャーノレッジャーノのリゾットやパスタにおにぎりなど、元々この国の人たちが食べてきた料理に加え、新たに付け加えた料理が並ぶ。
半分以上が初めて見る料理に、人々は最初こそ躊躇していたものの、聖女である財前さんが美味しいと食べ、カザールさんもアドキンスさんも一度私の料理を食べた人が率先して食べてくれたので、中盤には供給する料理がおいつかなくなった。

「ユイナ、これをどうぞ」

アドルファスがリゾットを掬ったスプーンを私に向ける。

「あの、自分で食べますよ」

食べさせてくれようとしているのを、周りを気にしてそう言うと、彼は頑なに首を振った。

「駄目です。これは結婚式の宴での決まり事なのです。花婿が花嫁に食べさせる。一生ひもじい思いはさせないという大切な儀式なのです」
「そ、そうなんですね」

式のことは色々打ち合わせしたが、宴のことはほとんどレディ・シンクレアに任せていたので、詳細はわかっていない。日本で参列したことのある披露宴でもそうしている人たちもいた。

「さあ、ユイナ」

急かされて口を開ける。リゾットを口にした。

「まあ、仲がいいこと」

そこへレディ・シンクレアとカーライル様達がやってきた。

「レディ、カーライル様、システィーヌ様」

立ち上がって三人に挨拶する。

「他人行儀だな。もうアドルファスと結婚したのだから父と呼んでください」
「私のこともお母様と呼んでください」
「は、はい。ありがとうございます。お、お父様、お母様。これからもよろしくお願いいたします」

そう言うと、二人は満面の笑みを浮かべて喜んでくれた。

「こちらこそ」

私とカーライル様とシスティーヌ様で、照れ笑いしあう。
この感じいいな。と穏やかな家族団らんの空気にほっこりした。
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