異世界召喚 (聖女)じゃない方でしたがなぜか溺愛されてます

7 後見人

「私はこの世界の右も左も分かりません。私に最適だと思われて決めていただいたことに従います。ただ、この世界にいる間は、出来れば財前さんとは出来るだけ会えるようにしてください」

「それがあなたの望みか?」

「はい」

「ふむ…実はあなたの身柄と生活の後見をしたいと申し出た者がいるのだ。色々考えた結果、その提案を採用しようと思う」

「私の後見…ですか?」

誰かに面倒を見てもらうほど子どもではない。大学に入ってから一人暮らしを始め、学費は親に払ってもらったが、生活費は家庭教師などのアルバイトをして稼いだ。

社会人になってからは特に金銭面や生活を誰かに頼ったことはない。

親から自立し、自分のお給料で手に入れた生活は私のお気に入りだった。
でもここでは私は誰かに面倒を見てもらわなければいけない。
見知らぬ土地で世界観も常識も違う。仕方ないことだけど、自分が頼りない存在に感じた。

「どなたが…」
「レインズフォード卿だ」
「レインズ…フォード卿?」

誰だろう。この中にいるのかと見渡すと、立ち上がった人物がいた。

「レインズフォードは私です。アドルファス・レインズフォードと言います」

仮面の男性が名乗った。

「あなたが…」
「あなたのことは彼とレディ・シンクレアに任せることにした」

国王が更に付け加える。
レディというからには彼の奥方だろう。

「もし嫌なら別の案も考えるが」
「いえ、大丈夫です。レインズフォード様…レインズフォード卿…」
「アドルファスでよろしいですよ」

そう言われても、初対面で配偶者のいる男性の名前を気軽に呼べない。

「よろしくお願いします」

結局名前の話は有耶無耶にして挨拶だけした。

「彼は今は一線を退いているが、少し前まではこの国でも一、二を争う騎士だった。王族でもあるし、後見としては申し分ないだろう。レディ・シンクレアも淑女の手本とも言える女性だ。聖女では無かったとは言え、異世界から来た客人をきちんともてなしてくれるだろう」

凄腕の騎士で王族。その妻は淑女の手本だなんて凄い。彼も端正な顔立ちをしているし、きっと美人な奥様なんだろう。

「ねえ先生、あの人、大丈夫なんですか」

他の人には聞こえないくらいの小さな声で財前さんが耳元で訊いてきた。

「大丈夫って…何が?」
「何だかあの人、笑顔が怖い」
「怖い?」

彼女がそう言うのでもう一度彼を見た。私と目が合うと彼はにこりと笑った。
仮面の下に何があるか気になるが、財前さんが言うような怖さは感じない。

「笑顔が怖いって…顔を半分隠しているから変に思うだけじゃない?」

それを言うならレインズフォード卿と反対側に座り、こちらを凝視している王子の方が怖い。

「心配してくれてありがとう。でも先生も大人だから、自分で何とかするわ」

「よろしいかな」

コソコソ二人で話していると、国王が割って入ってきた。

「何か気になることがあるのなら…」
「あの、そう言うわけではなく…」

レインズフォード卿の顔が怖いという、財前さんの言葉をそのまま伝えることは出来ない。

「では、ユイナ殿のことはレインズフォード卿に任せるということで、納得いただけたと思ってよろしいか」

「私は、私と財前さんが望む時に会わせていただくことが出来ればどこでも構いません」

どこでもと言う言い方は失礼だったかも。

「必要な時に会えるよう取り計らいます。我が家の大切な客人としてお迎えしますので、ご安心ください」

私の言い方を気にしていない感じだったので安心した。それだけ聞けば充分だった。

「あとひとつ、よろしいでしょうか。聖女というのは、具体的に何をするのでしょうか」
「あ、私もそれを知りたいです」
「そうだな。それについては魔塔の者から説明させよう」
「僭越ながら、私から申し上げてよろしいでしょうか」

国王が魔塔の主に矛先を向けると、その隣に座っていた男性が手を上げた。
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