幼馴染は、政略妻を愛したくてしょうがない
一椛が倒れないように支えながら膝裏に手を入れてそのまま持ち上げる。

食べることが大好きなくせに細身だ。それに抜群のスタイルを保っている。入浴後にストレッチをしている姿は見るが、基本は体質的なものなのだろう。

彼女の身体をぶつけないように注意を払いながら、部屋まで運んだ。

ソファに転がしても、一椛は起きない。

今夜、ふたりで食事をして気持ちを伝える予定だったのにな。
思わぬ形での帰還に、俺はあきれた笑みをこぼす。

まあ、無事でよかった。
あとは誤解を解いて、一椛の心を取り戻せばいい。

フローリングにあぐらをかいてしばし一椛の寝顔を見つめていると、ふいにまぶたが持ち上がった。

「貴晴…さん?」

「ああ、起きたか。 結構飲んでるみたいだし、風呂は明日にして今日は着替えて寝ろ」

「んぅ……貴晴さんの、ばか」

「は?」

「アンさん…ていう人がいるのに、私なんかと結婚して……ほんとに、ばか」

最悪だ。しかし、いまだ頭は夢の中、みたいな惚けた顔をしたこいつには、俺の声は届かない気がする。
今は言わせておいて、明日以降に全力を注ごう。

「……でも、今までずっと、私がしばりつけてたんだもんね。 親の立場を利用して……貴晴さんと結婚して……もう、私のことは、ほっといてもいいよ。 好きな人と、幸せになったほうが、いい…」

「一椛! それは違う。俺が好きなのは、――」

聞こえるのは穏やかな寝息。

俺は本日何度目かのため息をついた。


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