まあ、食ってしまいたいくらいには。


すると、
彼女はぱちぱちと何度か瞬きをして。


なにかを思いついたように、悪戯っぽく笑った。




「それじゃあもしももを食べて合体したら、あなたが"私"って言ってもおかしくないね」



なにを思いついたかと思えば。


ふ、とつられるように笑ってしまう。




「一生ならないよ、そんなことには」



強がりでもなんでもなく、心からそう思っていた。


彼女がケーキだと知って早いものでもう数年。

一緒にいることを選び、最も危惧していた彼女への食欲は、予想していたよりもずっと湧いてこなかった。


あとあと知ったことだが、フォークがケーキを前にしても理性を失わない、食欲に支配されないのは、だいぶレアなケースらしい。


身近な関係でお互いを信頼し合っていると稀にあること、だとか。


つまり、彼女も僕といることに常日頃より充足感を得ている、という事実が、ただ嬉しかった。


< 162 / 236 >

この作品をシェア

pagetop