まあ、食ってしまいたいくらいには。


あのね、と言葉をつむぐ。




「辛くなったら、一緒にご飯を食べよう。わたしが芽野くんの舌になる」



すぐ近くで芽野くんが息を呑む気配がする。

沈黙に耐えられなくなって、わたしから口をひらいた。




「えと、励ましの言葉のつもりだったんだけど、足りない…かな?」


もしかして励ましになってないとか?



「わたし、芽野くんのこと怖くないよ。だから、あの、えっと、あ……味見してみる?」


覚えたばかりの言葉を使っている気分だった。

というかちょっと変態チックになってしまった。愔俐先輩のせいだ。


おそるおそる差し出したわたしの腕を、芽野くんは────そっと降ろした。




「もう充分、満ち足りたよ。胸焼けしそうだ」



あ、目が合った……。


ようやく向けられた視線には、彼の人となりがこれでもかと込められているようで。

わたしはそれを焼きつけるように目を凝らした。


口の中にはケーキの甘みやラベンダーチャイの香りが残っている。


芽野くんもそうだったらいいな。



いまにも落ちてきそうな蒸しパンの月が、わたしたちを見守るようにぷかぷか浮かんでいた。


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