まあ、食ってしまいたいくらいには。
幕間





物心ついた頃から世界はモノクロだった。


味覚があるかどうかなんて関係ない。どうやって友だちを作るのかわからなかった僕は、いつもひとりぼっちだった。


みんな、僕のことをブキミだという。

むすっとしてるから一緒にいてたのしくない、とも。


そんなこといわれたって、どうすればいいかわからない。


大人たちは僕がフォークであることをしっていた。

だから、よけいに子どもたちから僕を遠ざけていたんだろう。


僕だって……



こんなの、なりたくてなったわけじゃないのに。





「だいじょうぶ?」


その日は、じわじわと暑い夏の午後だった。


だれもいない公園でブランコに乗っていると、ふっと陰が落ちてきた。

顔をあげると、そこにいたのは僕と同じくらいの女の子。



くらり、揺れた視界はきっと熱のせい。



僕の顔をみて、彼女は目をまるくした。



「ないてるの?」

「……きみは」


ひさしぶりに出した自分の声は、まるで壊れかけのロボットのようにぎこちなかった。




「もも? ももはねえ、ももっていうの!」



子どもながらに、馬鹿っぽい子だなと思った。


だけど僕はすぐに彼女から目をそらせなくなる。




それは太陽にも負けない、みずみずしい果実がはじけるような笑顔だった。




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