丘の上の大きな桜の木の下で、また会おう~After Story~
紀信「志田さん?」

志田「少しだけ、後悔してるんだ」

紀信「杏樹ですか?」

志田「あぁ。
例え“不倫”でも、杏を抱き締めることができるならいいと思ってた。
一緒に住むことができなくても、堂々と二人で歩くことができなくても、抱き締めて、キスをして、抱くことができるなら…それでも構わないって。
でも━━━━━
欲が出てくるんだ。
離れたくない。
ずっと一緒にいたい。
俺のモノだって、声を大にして言いたいって」

紀信「志田さん……」

志田「だから、紀信くんもきっと……一度鈴嶺ちゃんとキスをしたら、後は雪崩みたいに全てが崩れていく。
凱吾くんとの関係も壊れる」

紀信「そうですね…」

志田「凱吾くんとの関係が壊れるだけならいい。
でも、きっとそれは鈴嶺ちゃんを苦しませるだろ?
だから、ダメだ!」

紀信「はい」

志田「どんなに残酷な男でも……
鈴嶺ちゃんにとって、凱吾くんは“最愛の男”なんだから━━━━━━」


一方の鈴嶺。

後ろ手にドアを閉め、ずり落ちるようにペタンと座った。

“鈍感でいてよ。
じゃないと僕は益々、鈴嶺から離れられないでしょ?”

鈴嶺「ごめん…なさ…い…」

紀信を、傷つけてしまった。
普通に接することが一番と思い、今まで通り紀信との関係を続けていたが、結局傷つけている。

目が潤み、あっという間に涙が溢れてくる。

鈴嶺「ごめんなさい…ごめんなさい……」

凱吾「………鈴、嶺…?」
バッと顔を上げると、凱吾が起き上がり鈴嶺を見ていた。
かけ下りるようにベッドを下り、鈴嶺の元に駆けつける。

凱吾「鈴嶺!?どうしたの!?
泣いてるじゃないか!
鈴嶺?どうした?」

凱吾に包み込まれ、頬に触れられただけで安心してドキドキしてしまう。
大切な親友を傷つけて、自分は大好きな人に包まれている。

最低だ━━━━━

でも、その思いとは裏腹に幸せを感じている。

鈴嶺「凱く…」

凱吾「ん?」

鈴嶺「好き!」

凱吾「うん、僕も好きだよ!」

鈴嶺「大好き!」

凱吾「うん、僕も!」

鈴嶺「好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き………!!!」

凱吾「鈴嶺?どうし━━━━んんっ!!?」
凱吾の口唇に押し当てるように、口唇を重ねた鈴嶺。

それでもいい。
紀信を傷つけることになっても━━━━━

鈴嶺「私は、凱くんがいい━━━━━」
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