丘の上の大きな桜の木の下で、また会おう~After Story~
杏樹の孤独
知里はあの日以来、行方不明だ。
名原一族も、行方がわからない。

どう考えても、凱吾や志田が中心となってしでかしたはずだ。

でも凱吾や志田はもちろん、宗匠や紀信、佐木も口を閉ざし何も教えてくれない。


杏樹「━━━━やっぱ、凱吾もか」
鈴嶺「うん。名原さんに関することは、一切答えてくれないの」

凱吾・鈴嶺の自宅マンションでランチ中の鈴嶺と杏樹。

二人は名原の話をしていた。

杏樹「久史さんに聞くと、誤魔化されちゃうのよね……
キス責めにあって、結局聞けずじまいに終わる」
鈴嶺「杏ちゃんも?」

杏樹「“も”ってことは、凱吾もか!(笑)
凱吾、凄そう(笑)」

鈴嶺「………きっと、恐ろしいこと…してるよね」

杏樹「そうね…
でも、私達じゃどうしようもできないわ」
鈴嶺「そうだよね…」



鈴嶺「━━━━杏ちゃん、これ!」
鈴嶺が杏樹に、紙袋を渡す。

杏樹「ん?」
鈴嶺「少し早いけど、お誕生日のプレゼント!」
杏樹「ありがとう!」

鈴嶺「当日は志田さんと一緒かなって思ったから、今日のうちにと思って!」

杏樹「フフ…ありがと!」

鈴嶺「フフ…志田さんと、素敵な日にしてね!」


そして誕生日当日━━━━━杏樹は、自宅マンションで志田を待っていた。
約束の時間になっても、志田は来ない。

その時スマホの着信音が鳴り、志田からメッセージが入った。

“ごめん、杏。
今日、行けそうにない。
また連絡する”

杏樹「あ、奥さんか……」
ポツリと呟く。

志田は、仕事で会えない時はちゃんと“仕事で会えない”と書く。
こんな淡々としたメッセージの時は、妻と何かしらの用があるのだ。

杏樹のスマホを持つ手が、力なく落ちた。


“本当は、自分だけ見ててほしいって思ってるでしょ?”
以前言われた、鈴嶺の言葉が蘇った。

“会いたい”
そうメッセージを打ち、消す。



杏樹は決めていた━━━━━━━

志田の愛人になると決めた時“自分の欲をぶつけない”と。

でも、今日は一人は嫌だ。
杏樹は、鈴嶺に電話をかけた。

凱吾『もしもし?』
杏樹「え?凱吾?」

凱吾『うん。何?』
杏樹「鈴嶺は?」

凱吾『寝てる』
杏樹「そう。
………てか、なんで凱吾が出るの?
鈴嶺のスマホでしょ?」

凱吾『鈴嶺は僕の鈴嶺だから』

杏樹「意味わかんない」

凱吾『杏樹こそ何?
今日は、志田さんと誕生日を祝うんだろ?』

杏樹「ドタキャンされたの!」
つい、声を荒らげてしまう。
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