丘の上の大きな桜の木の下で、また会おう~After Story~
夜道に、二人の足音だけが響いている━━━━━━

結局杏樹が“帰る”と言い、宗匠が自宅まで送っていた。

宗匠「………」
杏樹「………」

二人とも無言で、ただ静かに歩く。


杏樹「…………ありがと」
呟くように言った、杏樹。

宗匠「ん」

杏樹「おかげで、寂しい誕生日にならなかった」

宗匠「ん」

杏樹「“ん”の他、なんかないの?」

宗匠「…………杏樹」

杏樹「ん?」

宗匠「あんまり、辛いなら……」

杏樹「うん」

宗匠「終わらせてやろうか?」

杏樹「え……?」


宗匠「━━━━━━志田 久史って男を、お前の前から消してやろうか?って言ってる」


杏樹「………」

宗匠「あいつは、ヤクザだ。
一生、会えないとこにぶちこむことできる」

杏樹「それは、嫌!」



宗匠「━━━━━だったら“寂しい”なんて、わかりきったこと言うな。
いつでも、話し相手になってやる。
ただ、忘れるな!
“幸せになれない恋”を選んだのは、杏樹自身だ」



宗匠にマンションの前まで送ってもらい、自宅のある階に上がる。

エレベーターを降りると………

杏樹「え………」


「おかえり」


志田がいた━━━━━━

杏樹「え……なん…で?」

志田「誕生日。ちゃんと祝いたくてな。
もう、昨日になっちまったが……!」

杏樹「久史…さ━━━━━」




志田「杏、誕生日、おめでとう!」








━━━━━幸せになれない恋。

わかっている。

未来なんてないことくらい。

一番じゃないことくらい。

寂しい思いをすることくらい。






でも………

私はこの瞬間の“幸せ”のために、彼と“幸せになれない恋”をするのだ。

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