仮面夫婦とは言わせない――エリート旦那様は契約外の溺愛を注ぐ
それから数日後、私は打ち合わせを終え帰宅してきた。

実は、一度駄目になった家庭料理本について、別の編集部から声かけされたのだ。最近の動画が評価されたようである。SNSでも時短料理の紹介を上げ、今までとは違う層にもアプローチしている。
結婚以来徐々にイメージに変化が出てきているのは間違いないだろう。今日の打ち合わせでも、家庭的なイメージが出てきたと言われた。戦略は成功している。

上機嫌でマンションのエントランスに入り、ポストを開ける。
中の封書を手にしてさっと目を通した…ダイレクトメールが何通か。
それに交じって明らかに個人が送ってきたと思われる封筒があった。水彩風のバラが描かれた封筒で、宛名は私。差出人の名はない。

誰からだろう。一瞬警戒した。
事務所に所属しているわけではないから、ファンレターなどを受け付けていたりはしない。住所も当然非公開だ。
書籍を出版した編集部宛てにファンレターが届くことはあるけれど、まとめて大きな封筒に入れられてくるのが常だ。その際、中身は安全確認で検閲されている。
今、手元にある封筒はどう見ても個人が私宛に送ってきたものなのだ。
家族や知人でこの住所宛てに手紙を書いてくるような人に心当たりはないし、差出人くらい書くだろう。
少々不安に思いながら家の中に持ち帰る。
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