仮面夫婦とは言わせない――エリート旦那様は契約外の溺愛を注ぐ
6. 愛の証



季節は春、私と史彰が結婚して半年が経った。

結婚以来、私のイメージは目論見通りに変化していっているようで、来月には念願の家庭料理本が発売される。
おしゃれでクールなおもてなし料理を作るスタイリッシュ女子から、家庭料理や時短料理も得意な料理研究家として見てもらえるようになった。
もちろん、まだ従来テイストの動画の方が再生数はいいし、ウケもいい。でも、活動の幅が広がったことは喜ぶべきだと思う。

そして、私自身の大きな変化は、たったひとりのために料理を作る喜びを知ったことだろう。
私の家族、私の大事な夫である史彰のために、毎日料理を作っている。

見た目やイメージよりずっと大事なものがあるとしたら、誰がその料理を食べてくれるかなのだとつくづく感じる。今までだって、自分のためや若菜のために作ってはいたけれど、どちらかといえば料理は仕事だった。今は違う。

「そう。桜澤さんは、とても素敵な真理にたどりついたのね」

今日、私は恩師の此村先生に会いに、彼女の邸宅にやってきていた。
此村先生は白髪の小柄な七十代女性で、こうして向かい合っていると可愛らしいおばあちゃんといった雰囲気だ。しかしキッチンに立つとき、シャキシャキ動き回る姿はとても格好いいのだ。

都内の古い戸建ては、彼女の亡きご主人が建てたものだそうで、現在は彼女がひとりで住んでいる。近所に息子さん夫婦が住んでいて、そのお嫁さんが彼女の一番弟子なので、生活と仕事のフォローは万全だ。
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