【完結】王子として育てられた私は、隣国の王子様に女だとバレてなぜか溺愛されています

第7話 二国合同剣技演習

「剣技の二国合同演習ですか?」
「そうよ、ルーディアム国とトラウド国で友好のために剣技演習を開きましょうという話を持ちかけられてね」

 ルーディアム国のサンクチュアリの一角、サロンでアフタヌーンティーをしながら話すリオとノエルは今週おこなわれる剣技演習について話をしていた。

「で、もしかして」
「ええ、キャロルちゃんにその演習に出てほしいのよ♪」

 はあと一息吐くと、キャロルことリオは紅茶を一口飲んで心を落ち着かせる。

「確かに私はこの国で最も剣技に優れているとは思いますが、王子が自ら出て良いものでしょうか?」
「それは大丈夫よ、向こうも王子が出るらしいから」
「え? それってまさか」
「ええ、フィル王子よ」

 その名前にドキリとするも、母親の手前平静を装ってまた一口紅茶を飲む。

「わかりやすいわね、キャロルちゃんって」
「え?」
「なんでもないわ」

 少し含みを帯びた言葉をなんともない表情で呟くと、ノエルはケーキをフォークで口に運ぶ。

「わかりました、剣を磨き準備しておきましょう」
「助かるわ~♪ 当日は私も見に行くから頑張ってね!」
「ええ、相手が誰であろうと剣で負けはしません」

 そう言って席を立つと、そのままサンクチュアリにある自室へと戻っていった。

「相変わらず、負けん気が強いんだから。誰に似たのかしらね? あなた」

 王子の親として表舞台に現れることのない自分の夫に向けて呟かれたノエルの言葉は、誰もいないサロンに消えていった。



◇◆◇



 二国合同演習の日、リオは準備を終えて闘技場の廊下部分に向かう。
 リオは自分の対決を全て圧勝で進め、ついに決勝戦まで突き進んでいた。
 もちろん相手はトラウド国王子フィルであり、両国間の第一王子の決闘ともあって観客は益々盛り上がっている。
 闘技場の廊下部分を進み、会場の入り口手前まで歩いていくと、そこには壁にもたれかかって腕を組みながら目をつぶるフィルがいた。
 リオはそんな余裕綽綽なフィルに声をかける。

「フィル王子、剣では私負けませんから」
「ふん」

 そう言いながら二人は会場へ入っていった。

 会場へ入り、二人は剣を構えると、審判の合図によって一気に間合いを詰めた。

「──っ!」

 先手を打ったのはリオだった。
 リオはその俊敏な足を生かしてフィルのもとに一気に距離を詰めると、そのまま脇腹を狙って剣を刺した。
 それを避けずに、自らの剣で受け止めるとその力を受け流してするりと身を翻してカウンターを繰り出す。

 会場の観客席では東にルーディアム国、西にトラウド国の王族、そしてその下に民衆と座って観戦していた。
 ルーディアム国の陣営では、ノエルがじっとその闘いを見つめていた。

「ノエル様、いつになく楽しそうですね」
「ああ、あの子の剣技を見るのは久々だからな。それにこの剣技は圧倒的にリオが有利だ」

 いつもサンクチュアリで話す口調とはまるで違い、その身は王を見事に体現している。

「やはり国随一の剣の使い手であるリオ様が有利ですよね」

 側近がさすが、と声をあげながら自国の王子を称えるがノエルは違った。

「いや、フィル王子は噂によると双剣使いだから、剣一本で闘うこの勝負はフィル王子のほうが不利だ」
「では、リオ王子の勝ちですね!」
「いや、リオはこの勝負、負ける」
「え?」

 それ以降ノエルは言葉を発することなく静かに闘いの行く末を見守っていた。


 一方、リオはノエルの言ったように闘いに苦戦していた。

(剣が全く通用しないっ! 全てこちらの力を受け流されて攻撃に転じられる)

 リオの表情はゆっくりと苦悶のそれへと変化していき、そして次第に息が切れてきていた。

(攻撃できてないのに、息が上がるっ! まさか、こうしてじりひんになるのを待っている?!)

 リオはフィルへの攻撃が一度も当たらないこと、そしてなおかつ自分は息が上がっているにも関わらず目の前にいる相手は涼しい顔をしていることに焦りを感じていた。
 剣を短く持ち、スピード重視で闘うことにシフトしたリオの剣先はわずかにフィルの腕に当たる。
 しかし、それにひるむことなくフィルは逆にリオとの距離を詰めて一気に身体まで攻め込むと、そのまま腕を捕らえてひねり剣を床に落とさせた。

「──っ!」

 慌ててリオは落とした剣を拾おうとするも、その前にフィルの剣がリオの顔の前に持ってこられた。
 そのままリオは降参の意を示す、両手を挙げて試合は終わりを告げる。

「さすがだ、リオ王子」
「いえ、フィル王子にはかないませんでした」

 リオとフィルは握手を交わしてお互いの陣営へと帰っていき、その決勝戦を最後として今回の二国合同演習は終了した。



◇◆◇



 ノエルはそっとサンクチュアリの奥庭にいる娘のことを見つめていた。

「もう、ほんとに負けず嫌いなんだから」

 そこには黙々と一人で剣を振るって稽古するリオの姿があった。
 合同演習から戻ったときからもう数時間はこうして剣を振るっている。

「剣士であったあなたの血かしらね」

 そう言ってガウンを着たノエルは自室へと戻っていった。
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