本気で"欲しい"と思った。〜一途なエリートドクターに見染められました〜
「……この後どうする?」
「え?」
特にこの後のことは何も考えていなかった由麻。時刻は既に二十一時を回っていた。そろそろ帰ろうか。
そう思っていた由麻は、和音の提案に言葉を失った。
「弟君の言ってた通り、朝帰りする?」
「……えっ!?」
お酒のせいか、その顔はほんのり赤く染まっているような気がする。
「俺は大歓迎だけど。由麻ちゃん、可愛いし。優しいし」
「え、えっと……」
じわじわと近付いてくる和音に、由麻は条件反射で一歩ずつ後ろに下がる。
そんな時に思い出す、理麻の言葉。
"向こうはどう思ってるかわかんねぇけどな?"
まさか。そう思ってかき消すように下を向いて目をギュッと閉じた。
そんな由麻に何を思ったか、和音は由麻の小さな手をそっと掴んだ。
ビクッと跳ねる肩。見上げると、それにふわりと微笑んで。
「──っ!」
引き寄せられて。後頭部に回った大きな左手。
由麻に合わせるように腰を曲げる。
由麻の手から顔に移った右手が、顎を持ち上げた。
されるがままに上を向いた由麻は、その目を見開いて和音を見つめる。
切れ長の目は鋭さを無くして優しく下がり、熱っぽい視線が由麻を射抜く。
「っ……」
言葉にならない感情が高ぶって、上手く息ができない。
「か、かずねさ……ん」
「ん?……何?」
「ち……かい……」
優しい微笑みが、どんどん近付いてきて。
唇を塞ぐ、柔らかくて温かいもの。
キスされている。気が付いても、体は動いてくれなくて。
何度も角度を変えて深くなるキスに、段々と息が上がる。
「……っ……」
思わず漏れた吐息。それに一瞬だけ和音の動きが止まって。
その瞬間、目の前の肩を思いっきり押した。
「……っ、と」
押されて我に帰ったのか、和音はみるみるうちに焦り出して。
「あ……ごめん、由麻ちゃん。本当にごめん!」
「っ……いえ。……帰りますね。失礼します」
「由麻ちゃん!」
口元を抑えながら逃げるようにその場から走り出した由麻。
和音は追い掛けたくても自分のしでかした事に慌てていてそれどころではなかった。
「……やっちまった……嫌われたああああ」
一気に酔いの覚めた和音はその場でわなわなとしゃがみ込むことしかできなかった。