虹色のバラが咲く場所は

231話 花子さん

「わ、私?!」
「男は女子トイレに入れないだろ」
「ゆ、雪希は?!」
「流石にダメでしょ」
「怖いの?」
「自分の棚に上げて!
さっきまで類の服握ってたくせに!!」
「それ今持ち出す事!?」

口論の末、僕たち3人は女子トイレ側の
廊下で待機することに。
「学校ってだけでも怖いのにトイレ 
なんて」
舞は文句言っていたが意を決して中に
入る。

震える息で深呼吸してゆっくり3回
ノック音が響く。
「はーなこさん、あーそびーましょー」
しばらくしてもなにも起こらない。
「ほ、ほらなにも起こらない。
やっぱりただの都市伝説、」

乾いた笑いに僕たちもホッとしたが
「べっぴんさんじゃ。めんこいのう」
「え、」
老婆のような掠れた声と共に個室の
中から白い腕が伸びて舞を引きずりこみ
鍵を閉めた。

「え、・・・」
「「「舞!!」」」
一瞬ためらったが、中に入る。
ドアを叩いても開かない。
「せっかちな小童は嫌われるぞ」
ため息混じりの声に体は動かなくなった

(金縛り!?)
でもすぐに解かれて指を鳴らすのと同時にドアが開いた。
「うわっ!」
「え、」
「ちょっと、」

ドミノ倒しになりトイレの床、ではなく
綺麗な畳の上に重なる。
「みんな、」

「え、なに、その格好。
というかここは?」
舞はクリーム色のブラウスに赤い吊り
スカートを着ていた。

「え、私いつのまに」
「おや、新たなお客さんじゃな。
久しいのう。ここに人が来るなんて
何百年ぶりかの。」
言葉遣いが似合わないほどの美少女。
ショートボブに舞と同じ格好をしている

蓮は振り返ってドアを開けると、
さっきと同じ手洗い場。
(どうなってるの?)

「まぁまぁ。落ち着きなさいな」
せっせと座布団を用意して、
緑茶とお茶請けが用意された。

「あ、あのここって」
類は座布団に正座して緑茶を啜る。
(早いな)

「お主らあの階段を上ってきたじゃろ?あの階段、毎晩夜が更けると1番増えての、その階段を踏むとこちらの世界に
来ることができる。」
「じゃ、じゃあ都市伝説って」
「あながち間違いではない。
経験してきたじゃろ?
階段も、音楽室も、鏡。他にも」
僕たちは3人揃ってうなづく

「すまんのう。すべてわしの知り合いのいたずらなんじゃ。ここはこの学舎が
建つまでは保育所で。
悲しくもここで亡くなってしまった
子らの遊び場でな。久しぶりの来客に
ハメを外しすぎたよう。
悪気はないんじゃ。許してくれぬか」
慈しみを浮かべた表情で
そんなことを言われてしまっては
なにも言えない。

「私たちは、帰れないんでしょうか」
「いや、そんなことはない。
同じ階段を13段あるうちに
降りれば帰れるぞ。」
「1、12段になったら・・・」
「まぁ、最短でも1日いないことになるな、こちらの世界はお主らの世界とは
違う。昼も夜もある。ここはずっと夜
だからな。何十年いようと老いること
はない。ただわしは現実から逃げてここに入り浸り何十年。
向こうに戻っても誰もわしを知らない。すでにこの体も幽霊みたいなもの」

懐かしむ声で自分の胸に手をあてる。
「ま、待ってください。
13段あるうちって。」
「そちらの世界で朝日が登るまで。
もう少し時間がある。それまで
付き合ってくれるか?」

さまざまなことを話した。当時と今の
流行りの違い。兄弟のこと。
僕たちの活動のこと。
花子さんの特技があやとりだったり。髪いじりが好きな花子さんに舞と僕は
おもちゃになったり楽しかった。

少し余裕を持たせて時間を教えてくれた。ドアを開けると変わらない
手洗い場で。
校舎をぐるっと回る。
音楽室も理科室も理由をわかって
しまえば怖くない。

「12、13。」
階段を降りた僕たちはスタッフさんから
ものすごく心配された。
「やっぱり、都市伝説かなにか
あったんですか」
お互いの顔を見ることはせず、
口に出した。
「「「「ナイショです」」」」

数年後、語りづがれた都市伝説により
毎年夏に、2年生は学校でお泊まり会が
開かれることになったとか。
これはまた別のお話

(ありがとう、レインボーローズ)
「花子さん。次、私もやって〜!」
「ちょっと待ってくれ」
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