逆ハーレム戦隊 シャドウファイブ

20 ハーレム戦隊3ブルカーン

 目を閉じ、横たわった黒彦さんを取り囲み、皆でぼんやりとその白くなった顔を眺める。

「黒彦……」
「どうして、こんな、ことに……」

私もなすすべもなく、静かに涙を流すことしかできなかった。こんなに悲しいと思ったのは生まれて初めてだ。
思わず私も彼のところへ行きたいと思った瞬間、「フォッフォオー!」と明るい笑い声が聞こえた。

 振り返ると、キラキラ光るカンフー服を身に着けた3人組が立っている。顔はベネチアンマスクと言うのだろうか。目と鼻の周りだけシンプルな黒いマスクで覆われている。

虹色とブルーメタルとゴールドの衣装の人がそれぞれ、ポーズを決めて叫ぶ。

「フェニックス!」

真ん中にいる虹色のカンフー服の人が両手を広げ片膝を折る。鳥のようだ。


「ドラゴン!」

ブルーメタルの人は横向きになり、両手のてのひら同士を向け重ねるが少し開けて平行に構える。ドラゴンの口だろうか。


「タイガー!」

ゴールドの衣装の人は招き猫のようなポーズをとる。


 シャドウファイブのみんなで凝視していると、
そのまま三人は「ハーレム戦隊3ブルカーン、参上!」と叫び、こちらに駆け寄ってきた。

「え?」
「なんだ」
「3ブルカーン? どっかで聞いた様な」
「敵ではないようだが」

 シャドウファイブの動揺をよそに、フェニックスと名乗った人が、説明することなく黒彦さんの側に行き「ドラゴンは両手、タイガーは足を頼む」と言い、本人は胸の前に手をのせる。

「はい」
「おっけーよ」

ドラゴンは両手首を万歳せて掴み、タイガーは両足首を掴む。

「はあああっーーーーーーー」

一瞬フェニックスの手からぼわっと光が見えた。

「よし。これでいいじゃろう」

黒彦さんの頬に少し赤みが差し、スース―と静かな寝息が聞こえ始めた。
「あっ! 黒彦!」
「息をしてる!」
「よかった……」
「助かったんだな」

シャドウファイブみんなで抱き合って喜びを分かち合う。


フェニックスは立ち上がると「まったく。まだまだじゃのう。フォッフォオー」と仮面を外す。

「じいちゃん!」
「じーさん!」
「おじいさん!」

そう緑丸さんのおじいさんだった。じゃあ、ドラゴンとタイガーは誰だろうと思っていると、その二人も立ち上がって仮面をとる。

「!」
「母さん!」
「お母さん?」

ドラゴンは白亜さんのお母さんの明美さんで、タイガーは青音さんのお母さんの桂子さんだった。

「これは一体?」

明美さんと桂子さんが顔を見合わせて「まだまだいけるわね」とニンマリ笑った。

「今日は明美ちゃんと桂子ちゃんが出てくれたわい」
「?」
「お前らの帰りがあんまり遅いんで、心配してきてみたら案の定じゃの」
「ほんと、心配したわよー」
「いや、そのことじゃなくて、その衣装とか3ブルカーンとかって何?」

白亜さんが明美さんに尋ねるとおじいさんが説明をしてくれた。


――シャドウファイブのメンバーの母親たちは、みんなおじいさんのところで太極拳を習ったことをきっかけに友人付き合いが始まる。
おばあさんを亡くして気を落としていたおじいさんを元気づけるため、緑丸さんのお母さんがおじいさんに太極拳教室を始めさせたのだ。
それからは新たな生きがいを持ったおじいさんによって、メキメキと太極拳を上達させた母親たちは、やがて町の風紀を乱すものを倒し始める。
おじいさんはそれを心配して一緒に自警団の一員となり、町の治安を裏からみんなで守っていたのだ。
フェニックスはおじいさんだが、ドラゴンとタイガーは交代制らしい。


 話を聞いていて赤斗さんが納得していた。

「確かに母さんも太極拳やってて、たまに夜出かけていってたな」
「ああ、俺たちが小学生くらいだったか?」
「ところでハーレム戦隊ってなんだ」

青音さんが尋ねる。

「ああ、それはね。おじいさんの気分が上がるっていうから付けただけで深い意味はないのよ」
「そうそう。あなたたちに心配させるようなことはないわよ」
「ハーレムは男の夢じゃの! 案ずるなばあさんを裏切ったりはしておらん!」
「そ、そう……」

緑丸さんは複雑な表情を見せた。

「しかし蛙の子は蛙じゃの、お前たちは母親に似て町を愛しておるのじゃの!」
「ちょっと衣装が地味じゃないかしらって思ってたけど」
「いや、そっちが派手すぎる」

確かにこの派手なカンフー服を着るのは勇気が必要かもしれない。まるで年末の歌合戦のトリの衣装のようだ。改めてシンプルなバトルスーツで良かったと思った。

「ふふっ、でもみんな良い息子に育ったわね」
「ほーんとほんと。ああ、黒彦ちゃんだっていい子よ? お父さんとお母さんを亡くして、とっても辛い思いをしたんだから。ちゃんと仲直りするんですよ」
「ああ、それは分かってる」

静かに横たわる黒彦さんを眺め、メンバーたちはしっかり頷く。今までの怪人騒動の事を、まるで子供同士のちょっとした喧嘩のように捉えていそうな、桂子さんと明美さんの大らかさに感心してしまう。

「まあ、これでわしらは帰る。じゃあの!」
「じゃあね」
「お疲れ様~」

 暗闇の中でも目立つ、派手な衣装の3ブルカーンは帰っていった。
後姿を見送っていると、おじいさんが二人のお尻を触ろうとした瞬間に、手を打ち払われているのが見えた。
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