逆ハーレム戦隊 シャドウファイブ

24 教えておじいさん

 ぼんやり歩いていると『もみの木接骨院』の裏の庭で、緑丸さんのおじいさんが太極拳の練習をしているのが見えた。
おじいさんはゆったりとした動きの中に力強さを秘め、優雅で本当に不死鳥のように見える。美しい無駄のない所作に見入っているとおじいさんが私に気づいた。

「おや? どうした? そんな暗い顔をして」
「おじいさん……」
「明日休みじゃろ? ちょっとお茶でもしていかんか」

おじいさんは優しい顔で私を誘ってくれる。

「お邪魔してもいいですか?」
「もちろんじゃ。いつでも歓迎じゃよ」

精神的に疲れてしまった私はおじいさんについつい甘えてしまい、お茶をご馳走になることにした。


裏口から接骨院のスタッフルームに入り、腰かけているとおじいさんは甘い花の香りのするお茶を淹れてくれた。

「はあーいい匂い」
「そうじゃろうそうじゃろう。お前さんのために、とっておきを出してきてやったぞ」
「と、とっておき……」

詳しく聞くと緊張して飲めなくなると思うので、黙って味わうことにした。

「さて。はなしてごらん」
「おじいさん……」

何でもわかっているのだろう。私の気持ちも黒彦さんの不安も。おじいさんと話していると一般常識や道徳で頭ごなしに否定されることがないので安心して話せる。

「実は黒彦さんが……」

さっき『黒曜書店』での二人の話をおじいさんに話す。

「なんと! クロのやつめ。こじらせすぎじゃろう」
「いえ。彼の不安はわかります。私もなんだか自分の気持ちに自信が無くなって来ちゃって」
「うーむ」
「だけどよく考えたら他の人たちに迷惑な話ですよね。みんなが私を選んでくれているわけじゃないし」
「いやいや。他の奴らもお前さんを欲しいと思っておるよ」
「そうですかあ?」

シャドウファイブの皆は優しくてとても親切にしてくれた。それは私がピンクシャドウだったからだと思う。
お茶を2杯飲み終えると、緑丸さんが「じいちゃんここにいたのか」と言い、そして私に気づく。

「あれ、桃香さん、きてたのか」
「はい。すみません。お邪魔してます」
「ふぉっふぉっ。わしがお茶しようって誘ったんじゃ」
「そんなナンパみたいな言い方して……」

あきれ顔の緑丸さんに私はフォローを入れる。

「いえ、おじいさんにお話し聞いてもらってたんです」
「そうじゃそうじゃ。悩める乙女の人生相談じゃ」
「そうなんです。あはっ」

明るく言ったが緑丸さんがまじまじと私の顔を覗き込む。

「何か辛いことがあった?」
「え、あ、いえ」

あんまり優しくしないで欲しい。
ぐらぐらふらふら流されて行ってしまう川の中のビニール袋みたいになる。

「なあ、緑丸よ。お前はモモカちゃんをどう思っておる?」
「え、あ、あの俺、君が好きだよ。メンバーとしてじゃなく、女性としてね」
「ええっ!?」
「ほらの。他の奴らだってそうじゃわい。クロのやつに遠慮しておるだけじゃ」
「桃香さん。君の真面目で頑張り屋なところが好きだよ。できたらここに居てほしいと思ってた。でも、君は――」

そう、黒彦さんが好き。

「じゃがクロの奴が頑なでの。モモカちゃんの気持ちを信じんのじゃよ。それでとんでもない提案をしおった」
「とんでもないって?」
「メンバー全員といたして、比較しろという事じゃ」
「――!」

さすがの落ち着いた緑丸さんも唖然とする。

「で、桃香さんは、どうしようと思ってる?」
「それがどうしたらいいかって。こっちがそれをして証明しようと思っても、みんなが嫌ならそんなことできないし。だけどそれが出来ないと黒彦さんは納得しないみたいだし。本当にどうしたら……」

おじいさんはもう一杯を茶を勧めて「みんなとやってみりゃええ。緑丸お前も遠慮するな」と笑う。

「そうだね、じいちゃん」
「え……」
「いい機会かもしれない。いつまでも時間をかければいいってものでもないし。明日ちょうど休みで集まるからそこで決めよう」
「決める?」
「うん。桃香さんもそこで決めるといい」

決めるって言うのはもしかして、皆とえっちする、ということになるのだろうか。

「緑丸。もしモモカちゃんが嫌がったらすぐに中止するんじゃぞ」
「わかってる」

正義のヒーローたちが私の心も身体も傷つけないことはよく知っている。そしてこれは生涯で最初で最後の大きな決断だ。これ以上の決断なんてもうないんじゃないだろうか。私も覚悟を決めて次へ進みたい。

「私。やります。明日、お願いします」
「ん。みんなに伝えておくよ。せっかくの休みだし、ゆっくりして夕方からおいで。もし考えが変わったら連絡してくれたらいいよ」
「はい」

もう緊張してきたけど、これで黒彦さんとの事がはっきりするだろう。

「ええーのう、ええのう! わしも混じってええか?」
「じいちゃんはばあちゃんに操を捧げてくれ」
「ちぇー」

おじいさんは残念そうに言うが、本当に心から亡くなったおばあさんを愛していて、一途だということを私は知っていた。
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