激情を秘めたエリート外交官は、最愛妻を啼かせたい~契約結婚なのに溺愛で満たされました~
 このビルは霞が関から空港までの通り道にはないし、わざわざタクシーを待たせてエントランスまでくる理由もわからない。

 私が首をかしげていると、亮一さんは気まずそうに目をそらし「……いや」とつぶやいた。

「そろそろ仕事が終わる時間だろうから、ひと目だけでも顔が見れたらと思って寄ったんだ」
「わざわざ私の顔を見るためだけに?」

 予想外の理由に声が高くなった。

「迷惑だったか?」

 彼の問いかけに慌てて首を横に振る。

「いえ、うれしいです」
「それならよかった」

 彼の表情がやわらかく緩む。

 きっと私を心配して様子を見に来てくれたんだろう。
 なんだかんだ言って、亮一さんも兄に負けないくらい過保護だ。

「会社の様子はどうだった?」
「みんなにおもしろおかしく噂されるんじゃないかって思っていたんですが、無駄な心配でした。みんな事情をわかったうえで詮索はせずさりげなくはげましてくれて」
「それは、日菜子の人柄のおかげだな」

 聡美と同じようなことを言われ、「そんなことはないんですけど」とはにかみながら首を横に振る。

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