激情を秘めたエリート外交官は、最愛妻を啼かせたい~契約結婚なのに溺愛で満たされました~

 厳然とした態度で言い放たれ、顔面蒼白の野口さんはごくりとのどを上下させる。

「行こう」

 亮一さんに促され、私はエントランスをあとにする。
 その間、野口さんはひとことも発さなかった。

 会社から離れ私は肩から力を抜いた。
 ずっと息をのみっぱなしで、ようやく呼吸ができた気分だった。

「亮一さん、ありがとうございました」

 ひと息ついてから亮一さんにお礼を言う。

「日菜子のためじゃない。俺が黙っていられなかっただけだ」

 亮一さんはいつも私を助けてくれるのに、決して恩を着せたりしない。
 いつも自分がそうしたかったからだと言ってくれる。
 その優しさを感じ、胸のあたりが温かくなった。

「それでも、うれしかったです。ありがとうございます」

 頭を下げた私を見て、亮一さんは柔らかく微笑んでくれた。

「でも、亮一さんは今日アメリカにたつんじゃ……?」
「あぁ。これから空港に向かう」

 彼の視線の先にはタクシーが止まっていた。
 あれにのって空港へ行くんだろう。

「空港に行く前に、ここに通りかかったんですか?」

 亮一さんは今日は本省に顔を出すと言っていた。

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