激情を秘めたエリート外交官は、最愛妻を啼かせたい~契約結婚なのに溺愛で満たされました~
「日菜子。わかったって、本気か?」
「本気もなにも、こんなことになったら別れるしかないよ。仕事だって、康介が部長に言えば私なんて簡単に辞めさせられるんでしょう?」

 私の今までの仕事のがんばりは、康介のひと言ですべてなかったことになるんだ。
 そう思うと、どうしようもなくむなしくなる。

「康介とは別れるし、一カ月後の契約更新はしないで辞めるから。……だからもう離して」

 こんなことを聞かされて、あの職場で働き続けるのは無理だと思った。
 私のすべてを否定されて、ボロボロに傷つけられて。それでもなにごともなかったように振舞うなんて、私には無理だ。

 今すぐ声をあげて泣きたかった。
 でもそんなみっともない姿を見せたくない。

 必死にプライドを奮い立たせ涙をこらえる。
 泣くのは、ひとりきりになるまで我慢するんだ。

 うるんだ瞳で康介を睨むと、彼は眉を寄せ視線を泳がせた。
 言葉を探すように何度か口を開きかけ、けれど結局黙り込む。

 そして私の手首を掴んでいた指を、ゆっくりと緩めた。

 自由になった私の腕には、康介の指の跡がついていた。

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