激情を秘めたエリート外交官は、最愛妻を啼かせたい~契約結婚なのに溺愛で満たされました~
 涙を浮かべた私を見て、彼はぐっと言葉につまる。

 その様子を見て少しだけ期待してしまった。

 悪かった。全部誤解だ。俺が好きなのは日菜子だけだ。
 そう言ってくれるんじゃないかって……。

 けれど康介は言い訳を探すように視線をさまよわせるだけだった。

「……離して」
「話を聞いてくれ」
「話ってなにを? 私のことなんかはじめから好きじゃなかったって康介の口から言いたいの?」
「そ、そうじゃなくて」

 康介は冷や汗をかきながら言葉を探す。
 そんな彼のうしろで、野口さんがにっこりと笑った。

「康介さん、早川さんに別れてくれってはっきり言ったほうがいいですよ。あと、もう顔を合わせるのもいやだから、仕事辞めてくれって。契約社員なんていくらでも代わりがいるし」
「野口」

 康介がため息をつきながら野口さんを振り返る。

 悲しさと悔しさがこみ上げてくる。
 ふたりの顔を見ているのがつらかった。
 今すぐこの場から立ち去りたい。

「……わかった」

 私がつぶやくと、康介は驚いたようにこちらを見る。
 その表情には戸惑いと怒りがまじっているように見えた。

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