激情を秘めたエリート外交官は、最愛妻を啼かせたい~契約結婚なのに溺愛で満たされました~
 ゲージを挟んで見つめ合う。
 その犬は「くぅん」と細く鳴きわずかに尻尾を揺らす。

 少しだけ心を許してくれたような気がした。

『なでてみてもいいですか?』
『もちろんいいわよ』

 彼女は首輪にリードをつけ、その犬をゲージから出してくれた。
 眉間のあたりをそっとなでると、警戒するそぶりもなく気持ちよさそうに目を細める。

『あなたも大変だったのね』

 気遣うように声をかけてくれた老婦人に、『でも、私にはそばで支えてくれた人がいたので』と微笑んだ。

『あら、もしかしてそれはあなたのパートナー?』
『そうなんです』

 うなずきながら離れた場所にいる亮一さんを見つめる。
 彼がいてくれたから、今の私がある。

『素敵なご縁ね』
『はい』

 そのとき、すぐそばでパン!という破裂音がした。

 それまでおとなしくなでられていた犬が突然うなり声をあげた。
 大きな口を開き、老婦人にとびかかろうとする。

「危ない……!」

 考えるよりも前に体が動いた。

 老婦人と犬の間に入り、両手を広げ彼女をかばう。

 ぎゅっと目をつぶったけれど、痛みは感じなかった。
< 166 / 231 >

この作品をシェア

pagetop