激情を秘めたエリート外交官は、最愛妻を啼かせたい~契約結婚なのに溺愛で満たされました~
 黒髪に綺麗な立ち姿。
 間違いなく亮一さんだ。

 そう思った次の瞬間、彼の隣に女性がいることに気づいた。
 黒のロングヘアが美しい日本人女性。
 ふたりがホテルの中に入っていく様子を、息をのんで見つめる。

 信号は青になり、タクシーは走りだす。
 ふたりが入っていったホテルは、あっという間に小さくなった。

 私はうつむき胸に手を当てる。
 心臓が今にも壊れそうなほど大きな音をたてていた。

「亮一さん、仕事だって言ったのに……」

 私に嘘をついて、怜奈さんと会っていたんだ。
 今夜は彼女とふたりきりで過ごすんだ……。

 うつむいた視界に、薬指にはめられた結婚指輪が映った。
 ダイヤとサファイアが並ぶ美しいリング。

 ダイヤは『永遠の絆』、サファイアは『誠実』そして『慈愛』という意味を持っている。

 だけど、どちらも私と亮一さんにはふさわしくない言葉だった。

 動揺のせいかめまいに襲われた。
 青ざめながらタクシーを降り、コンシェルジュの男性の助けを借りて荷物を部屋へと運ぶ。

 なんとか冷蔵庫に食材をおさめ、息を吐き出した。

 熱くもないのに額に汗が浮かんでいた。
< 200 / 231 >

この作品をシェア

pagetop