激情を秘めたエリート外交官は、最愛妻を啼かせたい~契約結婚なのに溺愛で満たされました~
「大学を卒業して、就職して。はじめてもらった給料で両親になにかプレゼントしたいと思った。前からふたりが海外旅行したがっていたのを知っていたから、少しは旅費を出すから行ってこいって背中を押したんだ」

 そうだったんだ。そんなこと知らなかった。

「俺があんな提案をしなければ、おやじもおふくろも死なずにすんだんだ。俺のせいで事故にあった。だから、ふたりはきっと俺を恨んでる……」

 兄が過剰なくらい心配性だったのは、その後悔があったからなんだ。


 自分のせいで両親が死んだと思い込み、私まで失ったらどうしようとずっと不安だったんだろう。
 すとんと腑に落ちると同時に、怒りもわいてくる。

 唇を噛み、目じりに浮かんだ涙をぬぐう。

 そして私は息を吸い込み口を開いた。

「お兄ちゃんのバカ!」

 感情のままに吐き出した言葉に、兄がびくりと震えた。

「どうしてひとりで抱え込んで話してくれなかったの? 私がお兄ちゃんのせいだって責めるとでも思ってた?」
「それは……」
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