囚われのシンデレラ【完結】


 それから、西園寺さんが、自分のこと家のことを簡単に母に説明した。そのどれもに母は驚いて心配もしていたけれど、最後は「あずさが選んだ人なら間違いないと思ってる」と笑った。

 母が笑顔を見せる度に、私の胸は痛む。

「――それでね、西園寺さんが、心臓外科の有名な先生を紹介してくださって。だから、まずはその先生に診てもらって転院することになると思う」

その話を持ち出すと、母の顔色が変わった。

「私も昔からよく知っている大変すばらしい先生です。安心して治療を受けてください」

西園寺さんも母に言葉を掛けると、少し安堵したように笑顔が戻る。

「何から何まで、ありがとうございます。感謝します」
「いえ。それより、しっかり治療に専念してください。籍は早々に入れたいと思っていますが、式はお母さんが退院されてから挙げようと思っています。ですから、一日でも早くお元気になられることを考えてください」

え――?

その西園寺さんの横顔を凝視する。

「それじゃあ、私、頑張らないとあずさの花嫁姿見るのが遅くなるってこと?」
「そうなりますよ」
「俄然、早く直さなくちゃって気合が入るわね」

西園寺さんとお母さんが笑い合っている。

自分の都合じゃなくて、お母さんのことを考えてくれたの――?

お母さんが、治療に対して不安より前向きに取り組む気持ちになるように。

少ししてから担当医が病室にやって来た。

「進藤さん、良かったですね。慶心大の大石教授と言ったら、日本の心臓外科で右に出る者はいないスーパードクターですから。その先生に診てもらえるなんて、それだけで幸運の持ち主だ。不安にならず、安心して治療を受けてください」
「ありがとうございます」

その担当医は、快くカルテや病状の資料を準備してくれた。

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