囚われのシンデレラ【完結】


 それから、数日後には慶心大付属病院を訪れていた。常に患者さんが待っている大石教授は、本来なら貴重な休暇だったはずの時間を割いてくれたのだ。

 入念に診察と検査をし、その結果を聞くために今、私と母、そして西園寺さんとで診察にいる。

「――うん。検査の結果ですが、確かにできるだけ早く手術をした方がいいでしょう。手術の日の調整をしましょうね」
「母の病気は、手術でどの程度よくなるんでしょうか」

想像していたよりずっと親しみやすい雰囲気の先生だった。

「定期的な検査はこれからも必要になるでしょうが、日常生活に問題はなくなりますよ。そのためにも、手術を頑張り、その後の入院生活でも積極的に治療を頑張りましょう。ああ、手術を頑張るのは私ですね」

あははと、大石先生が笑う。深刻な病を、そんな風に言ってもらえるととても安心する。

「何より不安が禁物ですよ。前向きに考えることが大切です。それは、患者さんだけじゃない、ご家族もです」
「はい。先生、よろしくお願いします」

怖がってばかりはいられない。先生を信頼してすべてを任せる。そうできる先生を紹介してくれた西園寺さんには、感謝しかない。

 母はそのまま入院となり、看護師に付き添われて病室へと向かった。

「私、入院の手続きをしてきます」
「ああ」

西園寺さんにそう伝え、病院一階へと向かう。


 手続きを終えて、お母さんのいる病室へと行く途中だった。先ほど診察してもらった部屋の前で、西園寺さんと大石先生が何か会話をしているところが視界に入る。私はつい身を隠してしまった。

「――今回は、無理を言ってすみませんでした。それと、本当にありがとうございます」

先生を前に深く頭を下げている姿から、視線を逸らせない。

「君が珍しく必死な顔で家に来た時は、本当にびっくりしたよ。それに、お父さんには黙っていてほしいなんて言うからさ。なんだか、悪いことをしているような気になって。オジサンをドキドキさせないでくれ」

そう言って、大石先生が先ほどと同じように笑っている。

「本当に、いろいろ無理なことばかりお願いしてしまいました」
「いいよ。佳孝君直々のお願いなんて初めてのことだしな。男と男の約束だ。私は、あくまで佳孝君のお願いを聞いた。そうだろ?」
「ありがとうございます」

西園寺さんが、今回のことをどれだけ無理をして段取りしたのか。

それだけは理解できた。

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