ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。




「でも、…俺もほんとは帰したくない」



こういうセリフを、マンガやドラマで見たことがあった。

それと同じ意味だと思うのに、まったく同じに捉えることはやっぱり難しくて。



「ごほっ、…ケホッ、」


「えっ、寒い…?もしかして風邪…!?確かに体温も熱い気がするし…、待ってて!叔父さん呼んでくるっ」



「だめ」と、私の身体はすぐに引き寄せられた。



「せっかく俺と李衣のふたりだけの世界なのに。…だから、ここにいて」



ピッと電気を消すと、外に見える夜景だけが明かりとなってくれる。


コンコンとノック音が響いて、ひとりの看護師さんが様子を見に来たけれど、彼が静かに眠っていると思ったのだろう。

ゆっくりドアは閉められて、足音は遠退いていった。



「バレなかったよ千隼くん!」


「ね、案外チョロい」


「ふふっ、たのしいねっ」



暗闇のなか、どんなものよりも柔らかい温かさが唇を何度も包み込んだ。

たったそれだけで彼のことしか見えなくなる魔法。



「…李衣?」


「お、お姉ちゃんにお迎え頼むからっ、もう少し…一緒にいる、」


「…ん、」



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