ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。




価値を作るために私たちは生きているんじゃない。

私たちが過ごした時間そのものに、後付けのおまけのようにして付いてくるものが“価値”なんだと。



「おっす浅倉!」


「…ほう、じょう」


「んだよ親友の北條様が来たってのに、相変わらずな反応だなおまえ」



ひとつひとつ、今という時間、この世界に生まれ落ちたこと。

出会えたこと、お互いの時間を共有しあっていること。


そのすべてが価値ある奇跡なのだから。


きっと、いつか、なによりの財産となって私たちに降りそそぐ。



「見ろ浅倉、これヤバくね?見える?」


「…トイレット…ペーパー…?」


「そうそう、スーパーの抽選会で1年分当たっちまったんだけど!ウケんだろ?当分は困らねえから、明日20個は分けてやるわ」


「…ふっ、…いらなすぎ」


「は?おまえナメんなって。トイペは命の次に大事だろ」



ブランド物のバッグ、かわいいアクセサリー、ちょっと高いコスメ、いま流行りの服。

そんなものが色のないガラクタに見えてしまうくらい。


この時間以上に美しくて価値あるものは、きっと、どこにも存在しないのだと───。



< 310 / 364 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop