死に戻り皇女は禁色の王子と夢をみる
「ディアよ、この後何か予定はあるかね?」
クローディアは首を傾げた。予定を聞かれるとは、何かの誘いだろうか。
「いいえ。特にないわ」
「ならば殿下を案内して差し上げてくれ。グロスター美術館はディアも行ったことがあるだろう?」
殿下、すなわちリアンを案内して欲しいという頼み事に、クローディアの鼓動は跳ねた。ここで偶然会っただけでも、何故か胸の辺りがざわざわとしているというのに。
「…あるけれど、うんと小さい頃の話よ?」
「ならば尚更だ。これを機に我が国の歴史ある文化を、殿下とともに見てくるといい」
国宝級の美術品が並ぶグロスター美術館には興味がある。だが、リアンと二人きりとなると、興味よりも緊張が勝ってしまう。
ローレンスは自分やエレノスが行けないから、代わりにとクローディアに頼んでいるのだろう。部下や専門家ではなく、家族であるクローディアに頼むということは、ローレンスにとってリアンはただの客人ではないようだ。
しばし考えたのち、クローディアは微笑んで頷いた。
「…分かったわ。では支度をして参ります」
これはクローディアにとってもいい機会だった。物心ついた頃から城から出たことは殆どなく、オルヴィシアラに嫁いだ時が最初で最後だったと言っても過言ではない。新しい景色を、自国のことを知るのは良いことだろう。
「ではヴァレリアン殿下、半刻後に門で待ち合わせしましょう」
クローディアはリアンに軽く退出の礼をすると、後ろに控えている侍女アンナと共に自室へと向かって歩いていった。