死に戻り皇女は禁色の王子と夢をみる
「……その、実は交易のパーティでお見かけしたことがありまして」

やはり、とローレンスは心の中で頷いた。

「ふむ、そうだったのか」

マリスはローレンスのことを憶えていてくれた。だがしかし、ローレンスはマリスのことを憶えていない。それだけのことだろう。

しばらくの間、マリスは何かを考え込んでいる様子だったが、何かを決意したように顔を上げると、ローレンスの目を真っ直ぐに見つめてきた。

「……僕のような人間が、帝国の尊い御方にお願いするのは烏滸がましいのですが。僕を帝都まで、共に連れていって頂けないでしょうか」

ローレンスは思わず息を呑んだ。帝都はこの宿屋の窓から見える場所にあり、馬を走らせればあっという間についてしまう距離だというのに。

「どうしても、お会いしたい方がいるのです」

そう言ったマリスの瞳には、切実な光が灯っていて。
その力強い、けれどもどこか危うさを宿した眼差しに、ある人の姿を重ねたローレンスは口を開いたまま固まっていた。

その人の瞳は優しいグレイだった。いつだって笑っていて、少女のようにお転婆で、ローレンスを叱る唯一の人で。まるでお日様のようだったその女性は、ローレンスの所為で命を落としてしまった。

「……僕が一緒でなければ、会えない人だと受け取っていいのかね」

辛く悲しい記憶に今一度蓋をするために、マリスから目を逸らして声を発したが、情けないくらいに震えていた。

そんなローレンスの手に淡い熱が灯る。それを辿るようにマリスを見ると、その菫色の瞳は力強い光を放っていた。

「僕には時間がないのです」

ローレンスはふっと唇を緩めると、もう一度マリスの頭を撫でた。

「……では、着いてきたまえ」

「っ……、ありがとうございます!」

マリスを前にした時に湧き出た、愛しさにも似た温かい感情は何だろうか、と思う。

家族に似ているからか、あの女性のことを思い出したからか。それとも、また別の理由があるからか。

不思議なことに、その理由を調べる気が起きなかったローレンスは、雨が降り止んだら共に行こうと約束を交わすと、いつもの足取りで部屋を出ていった。
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