死に戻り皇女は禁色の王子と夢をみる

残月

──これが夢だと気づくのに、時間はかからなかった。

色とりどりの花が咲き乱れている庭園。その中心で、見慣れた人物が空を仰いでいる。風に吹かれ、ふわりと揺れたその髪は見事な黄金色で、兄弟の中で唯一父親から受け継がれたものだ。

幼い頃は羨んだこともあった。自分ともう一人の兄は高貴な血を引く母から生まれたのに、その兄の母はただの伯爵家の出だったから。

だけど、そんな捻くれた自分を、まるごと愛してくれた。名を呼んで、抱き上げ、頭を撫でて、優しく声をかけてくれた。いつだって後ろを振り返っては、両の手を広げて待ってくれている人だった。

だから自分は自分らしく生きようと思えたのだ。


そんな懐かしい気持ちに浸りながら、視線の先で佇んでいる兄を見つめていた時。その両腕の中に幼子がいることに気づいた。

髪は陽の色ではなく、次兄と妹によく似た白銀色で、陽を受けて煌めくと透けるような光を放っている。

(──これは、誰の記憶だ?)

間違いなく夢を見ていて、しかも自意識があるローレンスは、その不思議な光景を少し離れたところから見ているようだった。

幼子を抱いている兄と、白銀色の髪の幼子。何度瞬きをしても景色は変わらないが、不思議と嫌な感じはしなかった。
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