死に戻り皇女は禁色の王子と夢をみる
「──おじうえ。どうして僕には母がいないのですか」

幼子が不思議そうな声と顔で兄に問いかけている。空を見つめていた紫色の瞳はゆっくりと幼子へと注がれ、柔らかに細められた。

「そなたの母は空へ旅立ってしまったのだ」

「どうしてですか。僕よりもお空の方が良いのですか」

「そなたと一緒に居たかったが…天使に連れて行かれてしまった」

「お空には何があるのですか。どうして連れて行かれてしまったのですか。お願いすれば僕も連れて行ってもらえますか?」

子供の好奇心からか、幼子は純粋な眼差しで「どうして」と繰り返している。それを受け止めていた兄は次第に顔を曇らせていたが、自分も行きたいと乞うた幼子の言葉を聞くと、ついにその小さな体を掻き抱いた。

「ならぬ。自ら天使になることは大罪。……そなたに母はおらぬが、私がいる。エレノスもローレンスもいるから」

(───ぼ、僕もだと!?)

突然自分の名が出てきたことに驚いたローレンスは、思わず身を乗り出し、その勢いで草の茂みから転がるように彼らの前に出ることになってしまった。 
今のポーズに名を付けるならば、うつ伏せバンザイだ。

(うう……僕は何をしているんだ)

夢の中でも格好良くありたいというのに、この意味深な夢はそうあらせてはくれないらしい。

兄を“おじうえ”と呼んだ幼子。ならば既に亡くなっているという、母の名は──?

「おじうえ、また隠れんぼですか?」

ぱたぱたと足音が近づいてきたかと思えば、優しい手つきで頭を触られた。辿るように顔を上げると、小さな手が差し出されている。

白銀色の髪の幼子は、大きな紫色の瞳を瞬かせていた。
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