死に戻り皇女は禁色の王子と夢をみる

「……本当は、全部投げ出して、助けに行きたいです。でも、ディアはきっとそれを望まないと思うので」

「反帝の大軍はまだ国境にいて、この首都にすら辿り着いていないというのに……君は、ディアを救いに行かないと言うのか」

リアンはエレノスを振り返ると、凛とした表情で頷いた。

「俺はディアの夫であると同時に、この国の皇族で、王国の王家の血を引く人間でもあります。只人であれたなら、この世の何よりも妻の命を選びましたが、俺はもう、何の力も持たない子供ではないのです」

「…………殿下」

天井のガラスから差し込む光が、黒装束を纏ったリアンを照らす。陽色の髪と深海の瞳が一際眩しく感じられ、エレノスは目を細めながらリアンを見上げていた。

「ずっと日陰にいた貴方に、それができるのですか」

虐げられ、罵られ、疎まれ──誰もがその存在を怖れた。ただこの世に生まれてきただけだというのに。

幾度も存在を否定され、その証の一つである傷痕が今も身体中に残っている。それでもリアンは行くのか、エレノスに向かって深々と一礼をする。

「勇気はディアがくれました。俺は俺だと言ってくれた。だから行きます」

リアンは真摯な眼差しでそう告げると、晴々とした表情で歩き出した。振り返ることなく扉の向こうへと消えたリアンを、エレノスは囚われたように見つめていた。


「──時間が惜しいので、このまま向かいます」

凛とした顔で白い馬に跨っているリアンに、その場にいた誰もが見惚れていた。

風で揺られている黄金色の髪に、青い瞳、陽を知らなさそうな白い肌。そして肌触りが良さそうな黒一色のケープコートを羽織っているリアンは、単色しか纏っていないというのに、思わず目を惹く華やかさがあった。

リアンは青く澄み渡った空を一度だけ仰ぐと、馬の腹を蹴って駆け出した。

その姿を城の最上階から見送っていたルヴェルグは腹心に何かを命じると、禁色のマントを翻した。
< 312 / 340 >

この作品をシェア

pagetop