一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】
「冗談、ですよね?」

「まさか。契約書もある」

クロエさんは動画で手にしていた紙を差し出した。

契約内容だけでなく、きちんと日付と署名も書かれている。
ミミズのような俺の字。
クロエさんの字は驚くくらいの達筆で、思わず「字、綺麗なんですね」と口をついて出た。
クロエさんはまったく表情を変えない。

「酔っていた時の約束なんて……」

「ここまで一人で運んできたんだけど」

「それは……本当にご迷惑お掛けして申し訳なかったですし、感謝しています……」

それを言われてしまうと謝るしかない。
ひどく酔っ払っていたのは確かな事実。

「クロエちゃん、若い子からかっちゃダメでしょ。酔っ払いの介抱には慣れてるくせに」

若い子扱いされるということは、クロエさんはけっこう年上なのだろうか。
クロエさんの年齢は見当がつかない。
なんだかとても不思議な空気に包まれていて、年齢だとか、性別だとかを感じさせない。

「ねぇ、そういえば名前は?
まだ聞いてなかったよね」

あずささんが覗き込みながら聞く。

「……アオイです」

「名前?それとも名字?」と言いながら、あずささんは冷たいペットボトルを差し出した。

「名前も名字もアオイです」

「え?」

「青井《あおい》 アオイ……です」

そう答えると、あずささんは一瞬、驚いた顔をして「じゃあアオちゃんね。うんうん、アオイっぽい顔だわ」と大きく頷いた。
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