一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】
幼い頃に両親が離婚し、母親の再婚相手の名字が事もあろうに名前と同じ、あおい(・・・)
おかげで俺は青井アオイとなってしまった。
学校では名前や見た目をよくからかわれた。

俺はなにを言われようと泣きもせず、怒りもせず、「学校でなにかあったの?」と聞く母にも、なにも言わなかった。

再婚によってできた父と、血の繋がらない妹。
二人から好かれるためにはどう振舞えばいいのかを、常に考えた。

すべては、母を(わずら)わせたくなかったから。

俺がこれまでどうにかやってこれたのは、幼馴染みの茉莉香《まりか》いたからだ。


「アオイは、バイトしたいんじゃないの?」

はじめてクロエさんに名前を呼ばれた。

「バイトはしたいですけど、でも、こんな契約………」

「リゾートバイトの給与の倍額出す。信じられないなら先払いする」

「倍?!」

思わず大きな声を出すと、二日酔いの頭に響いた。

「クロエちゃんリッチだもんね。
ここ、クロエちゃんのスタジオ兼自宅なんだよ。
信じられないよね、一人暮らしで都心にこんな大きい一軒家とか。
ゲストルームまであるし」

高い天井に、長く、長く続く廊下。
この部屋だけでも人ひとりが暮らすには十分な広さがある。
いったいクロエさんは何者なんだろう。

「我妻玄栄で検索すれば、クロエの経歴とか色々出るよ。
会ったばかりのクロエを信用しろなんて、そりゃ難しい話だよね」

リキさんはスマートフォンを俺に手渡した。
スクリーンには「我妻玄栄、カメラマン」と検索した結果が映っていた。
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