御曹司の溺愛から逃げられません
駅前のロータリーまで来るとこちらを見て手を上げている人がいた。
もちろん私のはずがなく、通り過ぎようとしていると声がかかった。

「柴山!」

え? 私が振り向くとそこには課長がいた。

「課長? 奇遇ですね。昨日はありがとうございました」

お礼を言うと笑い声がきこえてきた。

「おいおい、一緒に連れて行ってくれるって言っただろう? 時間を決めてなかったから10時からここで待っていたんだぞ」

「えぇ?!」

約束した覚えなんてちっともない。
どうしよう。

「柴山覚えていなさそうだな」

「す、すみません」

ガバッと頭を下げるとまた笑う声が聞こえる。

「そんなことだろうと薄々思っていたから気にするな。それよりもお腹も空いたし、早速連れて行ってもらおう」

私の背中を軽く押し、駅の改札へと促した。
課長を誘っておいて忘れていたなんて本当に申し訳なさすぎる。
どうしよう……。
おどおどしてしまうが課長の手が私の背中に触れていることにドキドキしてしまう。
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