御曹司の溺愛から逃げられません
翌朝。
休みの日は寝坊がちだがいつもと同じ時間に目が覚めてしまう。
遠足の日のように朝からウキウキしてしまう自分がいてなんだか胸の奥がくすぐったい。
今日はこの前買ってもらったニットのワンピースにショートブーツを合わせて行くつもり。髪の毛はボブカットを少しアレンジしようとサイドを少し編み込み、耳にかけた。
コートを着て、バッグを手に持つと少し早めだが駅に向かって歩き出した。

新宿に着くと平日にもかかわらず人が多い。
なんとか待ち合わせの端に近寄ろうとするが人ごみに流されそうになる。
すると手を掴まれ、驚いて顔を上げると瑛太さんだった。そのまま私は背中に手を回され、抱きかかえられるように端へと連れて行かれた。

「今日は人が多いな。大丈夫か? 待ち合わせ場所にたどり着けなさそうだったな」

笑いながら話す彼の顔はいつにも増して素敵に見えた。

「すみません」

「いや、波から抜けようとしている姿がなんとも可愛かったよ」

そんなこと言われると急に鼓動が速くなった。

「ここは混んでいるから行こうか」

彼の手は私の背中を支えたままで、私は彼の腕の中にいるように思えて胸の奥がキュンとする。きっとまだ混んでいるからだ、と自分を納得させようとするが、前回もこうして背中に手を当てられていたのを思い出した。
彼はパーソナルスペースが狭いのかもしれない。
自分に都合よく考えるのはやめようと彼の行動を否定しながら歩いていると、無言になったためか彼は足を止め私の顔を覗き込んできた。

「どうした? 珍しく何も話さないな」

「ひぇ……」

慌てていた変な声が出てしまった。

「ご、ごめんなさい。ちょっと考え事をしていて」

「いや、俺こそ近すぎたな」

彼は正面に回っていた顔を離した。
けれど私のドキドキは止まらない。彼の顔があまりに近かったので、キスするのかと不謹慎にも思ってしまったとは間違っても言えない。

「もうすぐ着くぞ」

彼はさりげなくその場からまた歩き出した。
気がつくと背中から彼の手は離れており、彼は一歩先を歩いていた。
先ほどまでの温かい気持ちは消え、温もりを失った背中は急に寒くなった。ううん、寂しくなってしまった。
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