御曹司の溺愛から逃げられません
「ねぇ、最近社長とうまくいっていないの?」 

立川さんにランチに誘われ、近くのカフェに出かけると急に小さな声で質問をされおどろいた。
あれから一度も秘書室のみんなからはこの話に触れてくる人がいなかったから忘れてしまっているのかと思っていた。

「えっと……。そもそも私と社長は一緒のところで働いていたというだけの仲ですよ」

「まさか、そんなはずないわよ。社長が就任する時に真っ先あなたの名前を出してきて、みんな驚いたのよ。どうしても自分を支えてほしい人だと言っていたわ」

立川さんの言葉を聞いて顔が熱くなった。みんなにそんな話をしていたなんて……。

「柴山さんは何て思っているか分からないけど社長にとってあなたは特別な人よ。けど社長はともかく、柴山さんの態度が固いのが気になって」

「普通ですよ。普通の社長と秘書の関係ですから」

「本当はわかっているでしょ? 社長の態度があなたにだけは特別なものだって」

うん。
本当は少しだけ気がついてる。
私を気にかけてくれてるって気がついている。でも私は頑なに気がつかないふりをしている。
彼が話したそうなそぶりを見ても私は見ないふりをしている。
私の彼への思いは断ち切るべきだと思う。彼には相応しい人と結婚してほしい。

「立川さん。私は社長に合う女性と結婚して欲しいんです。だから……」

「社長に合うかなんて関係ない。社長が一緒にいたいと思う人が1番よ。なぜそんなに卑屈になるの? 私は一緒に働くようになってあなたを引き抜いてきた意味が分かるなって」

え?

「社長のお気に入りなんだくらいにしか思ってなかったのよ、正直なところ。けどあなたの仕事ぶりはとても丁寧。周りをよく見ていて次に求められることを常に考えて動いているのよね。それはすごく秘書として優秀よ」

私の仕事ぶりを褒められるなんて今まではなかった。前の支店で何でもこなしてしていたから、今が特別なことをしていると言う実感はない。それに支店では嫌味を言われることはあっても面と向かって褒められるなんてなかった。
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